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1991年に軟包装材料の開発部門に配属されてから、早くも30年以上が経過しました。
この間、私は軟包装技術の大きな変革期を第一線で経験してきました。
アルミ蒸着フィルムの実用化から、環境配慮型包材の開発まで、技術の進化を肌で感じながら歩んできた道のりです。
今、次世代を担う若手エンジニアの皆さんに、私が30年の経験から得た重要な知見を伝えたいと思います。
なぜなら、軟包装技術は今、大きな転換点を迎えているからです。
環境問題への対応、デジタル技術との融合、そして高度化する品質要求。
これらの課題に対して、私たちの技術的知見を確実に次世代に継承していく必要があります。
本稿では、特に重要と考える5つの課題に焦点を当て、私の経験と知見を共有させていただきます。
技術革新と環境配慮の両立
サステナブル包装への移行:現場からの提言
私が軟包装材料の開発に携わり始めた1990年代初頭、環境配慮という言葉は、まだそれほど重要視されていませんでした。
しかし、今や環境配慮型包装の開発は、私たち技術者にとって最優先の課題となっています。
ここで重要なのは、環境配慮と製品保護機能の両立です。
この課題に積極的に取り組んでいる企業の一つに、包装資材メーカーの朋和産業があります。
同社は環境配慮型包装材の開発を推進し、石油由来のプラスチックフィルム使用量削減に注力しながら、製品保護機能の維持を実現しています。
例えば、ある食品メーカーとの共同開発で、バリア性を維持しながら環境負荷を低減する包材の開発に取り組んだ際、従来のアルミ蒸着フィルムに代わる新しい素材の選定に苦心しました。
試行錯誤の末、透明バリアコーティングと特殊な表面処理を組み合わせることで、リサイクル可能でありながら、従来品と同等のバリア性を持つ包材の開発に成功しました。
このような経験から、私は環境配慮型包装の開発において、以下の3点が特に重要だと考えています。
- 製品保護機能の確実な担保
- 製造工程での実現可能性の検証
- コスト面での実用性の確保
これらのバランスを取りながら、持続可能な包装ソリューションを追求していく必要があるのです。
単一素材化技術の最前線と実践的アプローチ
単一素材化は、軟包装材料のリサイクル性を高める上で、最も有望なアプローチの一つです。
私が凸版印刷在籍時に取り組んだプロジェクトでは、従来、複数の素材を貼り合わせて実現していた機能を、単一のPEフィルムで実現することに挑戦しました。
この開発で特に苦労したのが、ヒートシール性とバリア性の両立でした。
表面処理技術と樹脂設計の最適化を重ねた結果、従来の複合フィルムに匹敵する性能を持つ単一素材フィルムの開発に成功しました。
この経験から、単一素材化技術の開発において重要なポイントが見えてきました。
材料設計の最適化
異なる機能を1つの素材で実現するには、分子レベルでの精密な材料設計が必要です。
製造プロセスの革新
従来の製造設備を活用しながら、新しい技術を導入する柔軟な発想が求められます。
品質評価基準の確立
新しい材料特性に対応した、適切な評価方法の開発が不可欠です。
生分解性材料の可能性と実用化への課題
材料選定の重要ポイント
生分解性材料の開発において、私たちが最初に直面する課題は適切な材料の選定です。
これまでの経験から、以下の観点での評価が特に重要だと考えています。
評価項目 | 重要ポイント | 課題 |
---|---|---|
分解性能 | 環境条件による分解速度の制御 | 保管中の安定性確保 |
機械適性 | 従来の包装機械での使用可能性 | 耐熱性・強度の確保 |
コスト | 量産時の経済性 | 原料調達の安定性 |
製造プロセスの最適化
生分解性材料の製造プロセスでは、従来の設備をそのまま使用できないケースが多々あります。
私が経験した開発案件では、押出工程での温度管理が特に重要でした。
材料の分解を防ぎながら、安定した製膜を実現するために、スクリュー構成から樹脂温度の細かな制御まで、様々な工夫を重ねました。
コスト削減への戦略
生分解性材料の実用化における最大の障壁の一つが、コストです。
私の経験から、以下のようなアプローチが効果的だと考えています。
材料設計の最適化
必要最小限の性能を見極め、過剰な機能を削減することでコストダウンを図ります。
製造効率の向上
製造条件の最適化により、不良率の低減と生産性の向上を実現します。
サプライチェーンの整備
原料メーカーとの協力関係を構築し、安定的な調達ルートを確保します。
品質管理と安全性評価の体系化
データに基づく品質管理システムの構築
私が大日本印刷在籍時に学んだ最も重要な教訓の一つは、「感覚」や「経験」だけに頼らない品質管理の重要性です。
確かに、経験に基づく直感的な判断も重要です。
しかし、それだけでは再現性のある品質管理は実現できません。
私たちのチームでは、2005年頃から本格的なデータベース化を進め、品質データの蓄積と分析を始めました。
その結果、それまで「職人の勘」とされていた判断基準の多くを、数値化・可視化することに成功しました。
例えば、フィルムの巻取り硬度と印刷適性の関係を定量的に分析することで、最適な巻取り条件を確立することができました。
このような経験から、私は以下のようなステップでの品質管理システムの構築を推奨しています。
1. データ収集項目の明確化
測定可能で意味のある品質パラメータを特定します。
2. 測定方法の標準化
誰が測定しても同じ結果が得られる手順を確立します。
3. データの分析と活用
収集したデータから、品質向上につながる知見を抽出します。
食品安全性評価の新たな展開
食品包装材料の安全性評価は、年々その重要性が増しています。
私が凸版印刷で品質管理部門のマネージャーを務めていた際、食品安全性に関する新たな規制への対応に追われた経験があります。
特に印象に残っているのは、2015年頃に取り組んだ非意図的添加物(NIAS)の評価プロジェクトです。
このプロジェクトでは、以下のような体系的なアプローチを採用しました。
評価段階 | 実施内容 | 重要ポイント |
---|---|---|
スクリーニング | GC-MSによる網羅的分析 | 微量物質の検出限界の確認 |
リスク評価 | 毒性データベースとの照合 | 最新の評価基準の適用 |
安全性確認 | 実使用条件での溶出試験 | 実際の使用環境の再現 |
トラブルシューティング:30年の経験から
よくある不良の分析手法
30年の経験の中で、私が最も多く対応してきたのが、印刷不良や接着不良などの品質トラブルです。
これらのトラブル対応では、系統的なアプローチが重要です。
例えば、印刷不良の場合、以下のような手順で分析を進めます。
1. 現象の正確な把握
不良の形態、発生頻度、発生条件を詳細に記録します。
2. 要因の体系的な分析
材料、設備、環境、作業方法など、各要素を順序立てて検証します。
3. 解決策の検討と実施
短期的な対策と恒久的な対策を区別して立案します。
効率的な原因究明プロセス
トラブル対応で最も重要なのは、効率的な原因究明です。
私がチームリーダーとして確立したプロセスをご紹介します。
まず、問題の「見える化」から始めます。
不良サンプルの写真撮影、測定データの収集、発生状況の時系列整理などを徹底的に行います。
次に、可能性のある要因をQMWS(Quality、Machine、Worker、System)の4つの観点から整理します。
この方法により、見落としのない分析が可能になります。
再発防止策の立案と実施
トラブル対応で最も重要なのは、再発防止です。
私の経験から、効果的な再発防止策には以下の3つの要素が必要です。
1. 根本原因への対応
表面的な対症療法ではなく、真の原因に対する対策を講じます。
2. 標準化と文書化
対策を確実に実施できるよう、手順を標準化し、文書として残します。
3. 教育訓練の実施
関係者全員が対策の意図を理解し、実践できるよう、適切な教育を行います。
包装機械との調和:適合性の追求
高速化・自動化時代の材料設計
包装材料と包装機械の調和は、私が常に重視してきたテーマの一つです。
特に近年、包装ラインの高速化・自動化が進む中、材料設計の重要性はますます高まっています。
私が経験した興味深い事例をお話ししましょう。
あるスナック菓子メーカーで、包装ラインの速度を従来の1.5倍に上げる計画がありました。
しかし、既存のフィルムでは高速運転時にシール不良が発生するという問題に直面したのです。
この問題に対して、私たちは以下のようなアプローチで解決策を見出しました。
材料設計の最適化
シール層の組成を見直し、より短時間で確実にシールが完了する設計に変更しました。
表面処理技術の活用
フィルム表面の摩擦係数を最適化し、安定した搬送性を確保しました。
品質評価方法の改良
実際の使用速度を想定した評価方法を新たに開発しました。
包装機械トラブルの予防と対策
包装機械とのトラブルは、生産性に直接影響を与える重要な問題です。
私の経験から、予防的アプローチが最も効果的だと考えています。
具体的には、以下のような点に注意を払う必要があります。
確認項目 | チェックポイント | 予防策 |
---|---|---|
フィルム物性 | 摩擦係数、剛性 | 定期的な測定と管理 |
印刷・加工 | 見当ズレ、接着強度 | 工程内検査の徹底 |
巻取り状態 | 張力むら、端面形状 | 巻取り条件の最適化 |
包装ラインの効率化:実践的アプローチ
包装ラインの効率化は、コスト削減の重要な要素です。
私が凸版印刷在籍時に実施した効率化プロジェクトでは、以下の3つの観点から改善を進めました。
1. 材料ロスの低減
立ち上げ時のロスを最小限に抑えるため、材料特性を考慮した最適な立ち上げ手順を確立しました。
2. 段取り時間の短縮
材料交換時の作業手順を見直し、効率的な切り替え方法を開発しました。
3. 運転速度の最適化
材料特性と機械性能のバランスを考慮した、最適な運転条件を見出しました。
デジタル技術との融合
スマートパッケージングの可能性
私が特に注目しているのが、スマートパッケージングの展開です。
例えば、温度センサーを組み込んだインテリジェント包装材の開発には、大きな可能性を感じています。
これまでの経験を活かしながら、新しい技術との融合を図ることで、包装材料の付加価値を高めることができるでしょう。
AI・IoTを活用した品質管理の未来
品質管理の分野でも、デジタル技術の活用が進んでいます。
私が最近関わったプロジェクトでは、AI画像認識技術を活用した印刷検査システムの導入を支援しました。
このような技術の導入により、人間の目では見逃しやすい微細な不良も確実に検出できるようになっています。
デジタルトランスフォーメーションへの備え
必要なスキルセット
デジタル時代の軟包装エンジニアには、従来の専門知識に加えて、新たなスキルが求められます。
データ分析力
収集したデータから意味のある情報を引き出す能力が重要です。
ITリテラシー
基本的なプログラミングやデータベースの知識が必要になってきています。
コミュニケーション能力
異分野の専門家との協業がますます重要になります。
学習リソースの活用法
技術の進化に追いつくため、継続的な学習が欠かせません。
私自身、以下のような方法で知識のアップデートを心がけています。
- オンライン学習プラットフォームの活用
- 業界セミナーへの積極的な参加
- 専門書や技術論文の定期的な購読
段階的な導入戦略
デジタル技術の導入は、段階的に進めることが重要です。
私の経験から、以下のようなステップを推奨します。
1. 現状分析
既存のプロセスを詳細に分析し、デジタル化による改善点を特定します。
2. 小規模な試験導入
リスクを最小限に抑えながら、新技術の効果を検証します。
3. 段階的な展開
成功事例を基に、徐々に適用範囲を拡大していきます。
まとめ
30年の経験を振り返り、軟包装技術の未来について考えると、次世代のエンジニアの皆さんには、大きな可能性と責任が待ち受けていると感じます。
環境配慮型包装の開発、品質管理の高度化、機械との調和、そしてデジタル技術との融合。
これらの課題に取り組むには、確かな技術力と柔軟な思考が必要です。
私たちが積み重ねてきた知見を基礎としながら、皆さん独自の創意工夫で、さらなる技術革新を実現していただきたいと思います。
最後に、若手エンジニアの皆さんへのメッセージです。
軟包装技術は、製品の保護という基本的な機能を超えて、持続可能な社会の実現に貢献できる可能性を秘めています。
ぜひ、この可能性に挑戦し、新しい時代の包装技術を築いていってください。
私たちが築いてきた基盤の上に、皆さんの新しいアイデアを重ね、さらなる進化を遂げることを心から期待しています。